腸の仕事はなんでしょう??
と聞かれて真っ先に思いつくのは何でしたか?
実は腸には様々な機能や役割がありますが、
大きく分けると、以下のように7つに分類されます。
1)腸内細菌の住処
2)栄養素の消化・吸収
3)老廃物や毒素を排泄する通り道
4)解毒
5)ビタミンを作る
6)ホルモンを作る
7)腸管免疫
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
1)腸内細菌の住処(すみか)
腸内フローラという言葉を聞いたことはありますか?
「腸内細菌叢」とも言われます。
腸の内面を広げると、テニスコート1面分の広さになるのですが、
ここに住む細菌の種類を色分けすると、
まるでお花畑のように様々な色で溢れることからこう呼ばれています。
腸には数百~1000種類、100兆個の腸内細菌がいるとされていますが、
人の細胞の数は37腸個ですから、それよりはるかに多い数になりますね。
重さにして1~2㎏。うんちの半分は腸内細菌やその死骸と言われています。
この腸内細菌には善玉菌、日和見菌、悪玉菌が混在し、
絶えずその領地を争って攻防を繰り広げています。
いわば細菌たちの国取り物語です。
日和見菌とは善玉菌が増えれば善玉の役割をし、
悪玉菌が増えれば悪玉菌の役割をする菌です。
ですので、悪玉菌が多くなれば、日和見菌は悪玉化しますので、
いかに悪玉菌を増やさないようにするかが大切となります。
さて、これまで赤ちゃんは、お腹の中にいる時は無菌状態であると言われてきました。
しかし、最近の研究では胎児は無菌ではないとの報告もあります。
とすると、お腹の中ですでに母親の菌叢を受け継いでいることになります。
また、出産時にもお母さんの腸内細菌をもらうことになります。
ですので、お母さんの腸内フローラが貧相だと、
赤ちゃんもそれを引き継ぐリスクとなります。
5歳までにその人の腸内フローラは決まると言われていますので、
お母さんの腸の健康は子供のそれを決めるとも言えるでしょう。
腸内フローラは世代を超えるのです。
女性は、妊娠を考えるようになったら、
赤ちゃんのために、妊娠前から腸を整えることは大切です。
また、腸の研究が進むにつれ、腸内フローラの多様性が重要であることもわかってきました。
ある細菌が生きるためには別の菌が必要で、この別の菌も他の菌の助けが必要・・・・
という具合に、多くの種類の菌が複雑に絡み合った生態系で生きているからです。
日頃、特定のプロバイオティクスを取っている方も多いと思いますが、
こういった理由により、多くの種類の菌を取る方が、
腸の健康には大切です。
2)消化・吸収
食べ物は、口→胃→十二指腸→小腸→大腸の順に送られますが、
その栄養素によって消化(分解)の段階が異なります。
お米やパンなどの炭水化物は口に入ると、
唾液に含まれる消化酵素(アミラーゼ)によって分解がスタートします。
肉や魚、豆類などのタンパク質は、
胃に届いてから胃酸(ペプシン)によって分解が始まります。
胃はpH2~3の強酸のため、外界から入ってくる病原菌などを殺菌する役目もあります。
胃でドロドロになった消化物はその後十二指腸へ送られ、
膵臓と胆のうから分泌される消化酵素(リパーゼ)や胆汁によって、
脂質はここで初めて分解が始まります。
こうして消化・分解された炭水化物、タンパク質、脂質は小さい分子となり、
小腸から吸収されて、全身へと送られます。
さて、一方ここまでの過程で分解されない食物があります。
それが食物繊維なのですが、食物繊維はどこで分解されるのでしょうか?
実は、食物繊維の分解は腸内細菌が担っています。
腸内細菌は食物繊維やオリゴ糖を分解し、
腸のエネルギー源となる短鎖脂肪酸を作り出します。
この短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸など)は、
腸の蠕動運動や炎症の抑制、腸粘膜バリア機能を高める働きをしています。
つまり、私たちは自分で持っている消化力だけでは栄養素を全て消化できないため、
腸内細菌に頼っているというわけですね。
3)老廃物や毒素を排泄する通り道
体内の毒素や有害物質、老廃物を体外へいかに出すかが、病気予防の要となります。
身体の中の老廃物は、主に便、尿、汗から体の外に出ていきます。
そのうち汗が3%、尿は20%、便には75%の割合で排泄されます。
このことからもわかるように、
腸はこの老廃物の通り道でもあり、排泄の重要な器官です。
だからこそ、便秘は避けたいものです。
便の形成や排泄までの作業は大腸内で行われます。
小腸までに消化・吸収された食物は、まだ水分が多くてドロドロしていますが、
大腸内を進むにつれて水分が吸収され固形化されて便になります。
このとき重要なのが「蠕動運動」と「粘液分泌」です。
蠕動運動は便を送り出し、
粘液は、便が大腸の細胞を傷つけないでスムーズに動けるように便をコーティングしていきます。
これらをコントロールしているのが「短鎖脂肪酸」です。
腸内には数百兆個の細菌が住んでいますが、
その中の特定の細菌(バクデロイデスなど)が短鎖脂肪酸産生に関与しています。
4)解毒
解毒(デトックスDetox)とは、身体の中から毒を出すことを言いますが、
生命活動に不都合を起こす物質の総称を毒(生体異物)といいます。
生体異物(毒/有害物質)には、
農薬や食品添加物、化学物質、重金属、病原菌など外から入ってくるものと、
二日酔いの原因となるアセトアルデヒドのように、
身体の中でできるものがあります。
これらを分解、解毒する臓器は肝臓の他に、腸もその一端を担っています。
口から入った有害物質は消化管を通り腸に達すると、
有害物質はここから侵入しますが、
腸は有害物質をブロックするバリア器官としても働いています。
腸上皮細胞が有害物質を検知すると、
多くはシトクロームp450の一種であるCYP3A4酵素が
有害物質を化学分解します。
そして分解された有害物質は、
専用の出口(トランスポーター)から細胞外へと排出されるか、
または血液に取り込まれ、肝臓へ送られます。
しかし、腸のバリア機能が弱かったり、便秘があると、
有害物質は分解されず、門脈を通して吸収され、肝臓へと運ばれ
肝臓に負担をかけることになります。
5)ビタミンを作る
ビタミンはヒトにとって大切な働きをしていることは、ご存知の通りです。
私たちは食事からビタミンを摂取していますが、
腸内細菌がビタミンを作ってくれていることをご存知でしたか?
腸ではこのうち、ビタミンB群とビタミンKの合成に関わっています。
ビタミンB群は、身体の多くの代謝でその反応に関わっていますので、
腸内環境が悪化するとこれらのビタミンの合成能も落ち、
なんとなく不調ということが起り得るのです。
疲れやすい、集中力が続かない、イライラする、
口内炎・口角炎ができやすい、肩こりが治らない、
などの症状は、もしかするとこれらのビタミン不足によるものかもしれません。
ビタミンB群には多くの種類がありますが、以下に主な機能をあげます。
ビタミンB1(チアミン)
糖質をエネルギーに変える
精神を安定させ、成長を助ける
ビタミンB2(リボフラミン)
細胞の再生やエネルギーの代謝を助ける
健康な皮膚・髪・爪を作る
ビタミンB3(ナイアシン)
糖質、脂質、たんぱく質の代謝に必要
神経症状を防ぐ
ビタミンB5(パントテン酸)
糖質、脂質、たんぱく質の代謝を助ける
免疫に働きかける
ビタミンB6(ピリドキシン)
神経伝達物質の合成に関わる
抗アレルギー作用に関与
ビタミンB7(ビオチン)
髪と皮膚の健康を保つ
筋肉痛を緩和
ビタミンB9(葉酸)と ビタミンB12(コバラミン)
たんぱく質や核酸の合成に関与
解毒機能の促進
貧血を防ぐ
ビタミンK
血液凝固に関係
骨の代謝にも重要
6)ホルモンを作る
脳内で働く神経伝達物質(脳内ホルモン)は
実は腸でも作られています。
脳の神経細胞と神経細胞の間には隙間があり、
直接つながっていないので、そのままでは電気信号は直接伝わりません。
そのため、神経伝達物質と呼ばれる化学物質を放出して、
次の神経細胞に信号を伝えています。
あたかも、ホルモンのように働くことから、脳内ホルモンとも呼ばれています。
例えば、幸せホルモンとして知られるのセロトニンは、
90%が腸に存在しています。
セロトニンは腸にある細胞で作られていますが、
この合成には腸内細菌が関わっています。
不安感に襲われる、うつ
元気が出ない、集中力が続かない
寝つきが悪い、眠れない
イライラする、
落ち着きがない
などの症状があれば、一度、腸内環境が原因ではないかと疑ってみましょう。
実際、うつや疲労感の強い方、ADHD(注意欠陥多動性障害)がある方は
腸内環境の悪化が多く見られます。
また、小腸上皮細胞はインクレチンと呼ばれるホルモンを分泌しています
インクレチンは、消化管に入った炭水化物を認識して消化管粘膜上皮から分泌され、
膵臓からのインスリン分泌を促進する作用があります。
食後、血糖値が上がると膵臓からインスリンが分泌されて、
インスリンによって血糖の上昇が抑えられますが、
このインスリンの量が少なかったり、
分泌されても上手に働くことができなくなると(インスリン抵抗性)、
血糖が一定の値を超えて高くなります。
これが高血糖や糖尿病と言われる状態です。
インクレチンはこの、血糖の上昇を抑えるインスリン分泌を促すため、
糖尿病治療薬として開発され、日本でも近年使用可能となりました。
糖尿病ではないけれど、高血糖ぎみの方や、血糖値不安定な方は、
腸粘膜機能を整えることで、インクレチン分泌を増やすことができれば、
血糖値の安定が期待できます。
また、リーキーガット(腸もれ)があると、
穴が空いた腸から炎症性物質が血液に流れ込み、全身の炎症をおこし、
インスリン抵抗性が増すことになるので、
血糖値の調節の観点からも、腸内環境を整えることはとても大事なことになります。
7)腸管免疫
腸には70%の免疫が集中していると言われます。
免疫とは、病気を防いだり、病気を治そうとしたりする働きのことです。
『疫(えき)から免れる(まぬがれる)』と漢字の通りの意味です。
免疫は体内に侵入した細菌やウィルス、カビ、花粉 etc.そして癌細胞などを
異物(自分以外のもの/非自己)とみなし、これを攻撃することで、
自分(自己)の身体を正常に保つという大切な働きをします。
それでは、なぜ70%の免疫機能が腸に集中しているのでしょうか?
口から肛門までは、
口—食堂—胃—十二指腸—小腸(空腸・回腸)—大腸—肛門と
1本の長い消化管でつながっていますが、
管の中は空洞で外部と接しています。
つまり、消化管は体内にありながら、外部と接しているので
「内なる外」と呼ばれています。
私たちは身体に必要な栄養素を口から摂取し、腸から吸収しています。
しかし、同時に細菌などの病原体も運びこまれてしまいます。
ですので、腸には自己でないものは排除しようというシステムが集中し、
門番としての免疫機能が備わっているのです。
この免疫を担っているのが
単球、リンパ球(T細胞・B細胞・NK細)、顆粒球(好中球、好酸球など)
などの免疫細胞(白血球)というわけです。